美味しい1冊【江戸前の素顔】藤井克彦

edo

 美味しい1冊です。

 東京に永らく住んでいながら、どうしてこの本を手にしなかったのか、後悔。本書は、2004年に出版されたハードカバーを大幅に加筆修正した文庫版。手頃な価格でハンディに読めるのだから、私のような江戸前に無知な者が手にするには、絶好の機会です。

 本書が美味しい理由は、豊穣な江戸前の海を見る目が変わることにあります。うなぎ、天ぷらや寿司を食べるときの「食べ心地」が繊細になる。

 豊富な文献と口伝によって漁民文化が、ノリのよいリズムで詳細に記されていて、料理本でも、釣り本でもありません。ただ美味いと思っていた江戸前の料理文化が、さもありなんように、時を超えて三次元の美味さに感じられるのは、江戸前をうやまう著者のおかげ。



江戸前の素顔 遊んだ・食べた・釣りをした (文春文庫)

藤井 克彦
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◯釣り雑誌の取材をかねて昭和の中頃から、老いた漁師や船頭たちから往年の江戸前の昔話を聞き、漁業や食文化を書き残すことを心がけてきた。農民文化は文字・文章として残っているが、漁民文化の伝承はほとんどが口伝による。

◯できることなら世界中からオリンピック観戦に来られる外国人のみなさまに、江戸前で捕れた魚介をぜひ召し上がっていただきたい。お台場に屋形船を浮かべ、江戸前のアナゴやハゼ、シロギスなどの天ぷらをご賞味いただきたいと願っている。

◯松尾芭蕉は庵で名句を何首も詠み、その前には大小の船が行きかい、岸近くで町人や武士が竿を出して釣りを楽しみ、漁師がウナギの筒を仕掛ける。それが世界有数の百万都市のお膝もとで繰り広げられた風景なのである。

◯家康が食通であったことはよく知られているが、自分の舌を満足させるだけであれば、権勢を竿に着て諸国から特産、名産を献上させれば済んだに違いない。彼のめざした「都市計画」は、衣食住の需要と供給のバランスを取ることで江戸の食文化発展の下地を築いたことにある。

◯初めて入る鮨屋で、ネタの表示がないとちょっと戸惑う。並、上、特上にお値段が書いてあれば目安になる。ただ江戸っ子の端くれとして、それではなんとなく寂しい。やはりカウンターに座り、握ってもらった鮨を手でつまんで食べたい。そんな時、特上の値段にプラスアルファの金額を提示して、「それでお任せで握ってもらえるかな」と頼んで断られたことがない。一見の客でも、その日でイチ押しのネタを握ってもらえるからぜひお試しいただきたい。

もとねすメモ)100年以上前のことも、身近に感じられて。

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