「ニコチンパッチよりは、いいですよ!」
調剤薬局で禁煙補助剤「チャンピックス」を勧めている場面にたまたま居合わせた。その根拠は?「チャンピックス」は、米国FDAで、今年7月に「枠付き警告boxed warning(最も強力な警告)」がされている。
看護学生からは、「自殺やうつ」について、どう指導すべきですか?と質問があったので、確認をしてみた。
現在手に入る禁煙補助剤は、ニコチンパッチとバレニクリンで、2)のブプロピオンは国内未発売。
禁煙補助薬
1)ニコチン置換療法→ニコチンパッチ、ニコチンガムなど
2)ブプロピオン(bupropion)→ドパミン再取り込み阻害(DARI)、抗うつ薬の一種でニコチン拮抗(国内未発売)
3)バレニクリン(Varenicline)→α4β2ニコチン受容体結合。ファイザー製薬「チャンピックス錠0.5mg, 1mg」、2008年4月に薬価収載。第1~3日目は0.5mgを1日1回食後、第4~7日目は0.5mgを1日2回朝夕食後、第8日目以降は1mgを1日2回朝夕食後→12週間まで
そして、海外での自殺念慮及び自殺報告の経緯は・・・
2007年12月(米国MHRA)バレニクリン→うつ病と自殺念慮の報告
2008年7月 (米国MHRA)バレニクリン→うつ病と自殺念慮の警告
2008年11月(米国MHRA)バレニクリン→うつ病と自殺念慮の再警告
2009年 7月(米国FDA) バレニクリンとブプロピオン
→「枠付き警告boxed warning(最も強力な警告)」
*英国では、50万人に処方されており、警告後に報告が3倍になった(これは、報道に刺激されての報告stimulated reportingとされている)。
*米国MHRAより、2009年4月までに14名の自殺が関連ありとして、報告されている。
しかし、今週のBMJには、関連性なしとの報告がされた。
Varenicline and suicidal behaviour: a cohort study based on data from the General Practice Research Database バレニクリンと自殺企図(一般診療調査データベースによるコホート研究)
BMJ 2009;339:b3805
死亡のリスク、非致死的な自傷行為との関連に明確な根拠なし。ニコチン置換療法と比較して、ハザード比は、バレニクリン1.12 (0.67 to 1.88)、ブプロピオン1.17 (0.59 to 2.32)。
目的:最近承認を得た禁煙商品のバレニクリンが、ブプロピオンやニコチン置換療法と比較して、自殺のリスクや自殺行動と関連があるのか、調査をすること。
デザイン:一般診療調査データベースthe General Practice Research Database.によるコホート研究。
対象:英国における初期治療Primary care。
参加者:2006年9月1日から、2008年5月31日までに禁煙の商品を新たに処方された人の男女で、年齢は18~95歳で、80,660人の男女。フォローアップの初期治療は、ニコチン置換療法 (n=63 265),、バレニクリンvarenicline (n=10 973), とブプロピオンbupropion (n=6422).であった。
主なアウトカム:第一のアウトカムは、死亡と非致死的な自傷、第二のアウトカムは自殺念慮やうつで、Cox比例ハザードモデルCox’s proportional hazards models.ですべて調査された。
結果:バレニクリンが、死亡のリスク(n=2) 、非致死的な自傷行為(n=166)との関連に明確な根拠はなかった。しかし、リスクの増加が2倍になることは、95%信頼区間の上限から除外はできなかった。ニコチン置換療法と比較して、バレニクリンを処方された患者の自傷のハザード比は、1.12 (95% CI 0.67 to 1.88)で、ブプロピオンは 1.17 (0.59 to 2.32) であった。バレニクリンがうつ病 (n=2244) (hazard ratio 0.88 (0.77 to1.00)や、自殺念慮のリスク (n=37) (1.43 (0.53 to 3.85)を増加させる根拠もなかった。
結論:バレニクリンの自傷リスクが2倍に増加することは除外できなかったが、こららの結果は、自殺行動に関する懸念におおよそ安心を与えたprovide some reassurance。
ただし、BMJは、QAとして、この論文のバイアスbiasなどについてこう指摘をしている。
まれで重大な副作用(死亡など)に対し、信頼区間が広く、研究の検出力が弱い。観察研究なのでコントロールできないバイアスがあるかも。年齢と性別で別に補正をすると結果が反転するという報告もある。また、おそらく自殺であろうという症例は、死亡診断書がない場合には、カウントされていない。
集積された副作用情報をハザード比だけで、現場対応するのは困難だ。個別症例(米国MHRAより、2009年4月までに14名の自殺症例)も確認して、どうするべきか、考えたい。
論文も個別情報も周知されていない。
当たり前の情報が、入らない。
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